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インターネット文化摩擦

マルチポスト

マルチポストの何が禁止されているのか

マルチポストはもともとネットニュースの用語でしたが、今ではメーリングリストやWeb掲示板などでも使われている言葉です。

マルチポストは多数の場所に同じ内容を投稿するという行為です。どのような意図を持って行うかには関係ありません。そして知っておくべき最も重要なことは、この行為それ自体が多くの人にとって嫌悪の対象になっているということです。

マルチポストを指摘されて「このことは重要なので、できるだけ多くの人に知ってもらいたいのです。」と主張した人を見たことがありますが、これは反論もしくは弁明としては無意味です。重要ではないと指摘されているわけでもなければ多くの人が知るべきではないと指摘されているわけでもありません。さらに善意や公共の利益を訴える場合もありますが、同様に悪意があると指摘されているわけでもなければ利己的だと指摘されているわけでもありません。

ルールやマナーには公共性がある

マルチポストは明確にルールとして禁止されていることもありますが、ルールではなくマナーとして暗黙の了解事項(もしくは常識)になっていることも珍しくありません。

ネット経験の浅い人が知らずにそういったルール・マナー違反をしてしまうといったことは時々起こりますが、その時に上記のように自分の意見を押し通そうとする人がいます。いくつか私が見たことのある例をあげてみましょう。

  • できるだけ多くの人に知って欲しい
  • 早く答えを知りたい
  • たくさんの回答が欲しい
  • 少なくともここ(このコミュニティ)では一回だけで、後は他の場所だ

あなたはまったく納得のいかないことだと思っているかもしれません。意見を述べることは問題ありませんし、理解できないルールやマナーに対してなぜと問うのも自然なことです。

しかしマルチポストに限りませんが、ルールやマナーはコミュニティの公共性を持ったものです。所属する一個人にとってすべて満足できたり納得できたりするとは限りません。

納得できないルールへの対策

マルチポストがなぜ禁止されているかについてはいろいろなサイトに書かれていますので、ここでは書きません。ここではネット上での人間関係を円滑にするためのそういったルールへの対処方法を書きます。

たった一人が多数の意見をそう簡単に変えることはまずできません。

上記のような主張をしたところで、そこの人々が「そうか。その通りだね。ルールを変更しよう。」とでもなれば都合がいいかもしれませんが、そんなことはまずありません。

実際に起こることは皆があなたの方を説得しようとするか、あくまでもマルチポスト禁止に異を唱えるあなたをコミュニティから排除することです。結局ルールは変わらないでしょう。

しかし、マルチポスト不可がマルチポスト可に変わることがないなら、次に取るべき行動はなんでしょう。私は以下のような選択肢がありうると考えます。

  1. 失礼にならないマルチポストを試みる
  2. そのコミュニティの方針に従う
  3. そのコミュニティから立ち去る
  4. あなたと同じ考えの人を集めてマルチポスト可のコミュニティを作る

失礼にならないマルチポストについては、前掲したWikipediaのマルチポストに記述がありますが、明確にルールとして禁止しているコミュニティでは試みること自体ができません。気をつけてください。

このことはマルチポストに限ったことではないのですが、特にマルチポストのように禁忌感に近い感覚を持たれるものについてはたびたび大きな摩擦となります。あなたが大したことでもないと思っているようなことに、相手が激しい反応をして驚くことがあるかもしれませんが、そんな時あなたは今までとは違った文化の中に足を踏み入れているのです。

チェーンメール

チェーンメールの正体

チェーンメールを知らない人には不幸の手紙のインターネット版と説明するとわかりやすいかもしれません。マルチポスト同様、禁忌感を持つ人が多く、どこのコミュニティでも禁止されています。

それでは対処法もマルチポスト同様、嫌わない人同士で送りあうのはかまわないのかというと、そうではありません。誰に対してもチェーンメールは送ってはいけません。

この項目は文化摩擦の一項目として書かれていますが、チェーンメールはあなたの人間関係を守る問題というよりも、インターネット社会全体のセキュリティの問題です。

上記Wikipediaのリンクにもチェーンメールが招いた悪影響の例が載っていますが、悪影響というのはまだ穏やかな表現で、はっきり危険と言っていいでしょう。

その危険性については、チェーンメールは流言そのものである、と言えばもう少し明確になるでしょう。

チェーンメールもまたマルチポスト同様、善意であることを主張して行おうとする人がいますが、危険性はその意図に関係ありません。また、チェーンメールはデマだからという人もいますが、内容が真実であっても危険であることに変わりありません。実際、Wikipediaに記載されている輸血の事例では内容は真実でした。

チェーンメールの危険性は動機や真偽には無関係です。

また、チェーンメールは伝言ゲームのように伝わっていきますから、伝えられていく間に伝言ゲーム同様に伝達の誤りが生じ、たびたび亜種が登場してきます。そして、誤りはランダムに発生するものなので、登場してくる亜種を制御することは誰にもできません。

多くの亜種は無害ですが、すべてがそうだとはかぎりません。上記Wikipediaの例でも結果的には風評被害を与えたり、サーバへのDDoS攻撃になっています。チェーン化が止まらなければ、さらに亜種が登場して被害が拡大したり他にも攻撃対象が増えてしまうかもしれません。

Wikipediaに記載された実例を読むとわかることがあります。攻撃の実働部隊は、ほとんどが善意で参加した人々です。チェーンメールにいいように利用されているわけです。

チェーンメールの何がいけないか

チェーンメールの危険性の話に入る前に、チェーンメールの何がいけないとされているのか整理しておきましょう。

  1. コンピュータ資源への脅威

    メールをやりとりする、掲示板に投稿する、といったどんな活動にもコンピュータ資源は使われます。

    多くの場合、コンピュータ資源としてはCPU時間やメモリ消費量、外部記憶(ハードディスク)消費量を指します。

    ハードディスクは2年に2倍といった急速な大容量化が起こっており、昔ほど脅威にはならないかもしれません。しかしCPU時間やメモリ消費量などは、チェーンメールが特定のサーバへのDDoS攻撃のように働いた場合には充分に脅威になります。

  2. ネットワーク資源への脅威

    どんな通信ケーブル(無線の場合も含む)でも、通信機器でもさばけるデータ量には限界があります。

    ネットワーク上を通っているデータ量はトラフィックと呼ばれますが、たくさんのチェーンメールが一度に転送されるとトラフィックが増大します。そしていずれはネットワークのさばける上限を超えてしまうでしょう。

    これは決して大げさな話ではなく、実際多くの人が悩まされているスパムメールは、一通あたりせいぜい数KB程度のものですが、インターネット上のトラフィックの過半数を占めています。

    チェーンメールはたくさんの人が集中的に参加するため、トラフィックという視点ではスパムと同じ問題を発生させるでしょう。

  3. 流言としての社会への脅威

    最初に書いたようにチェーンメールは本質的には流言です。

    従って、歴史上流言によって起こされた出来事はすべて起きる可能性を持っていますし、新しい時代に起こりうる(そしてまだ起こっていない)「何か」も起こることでしょう。

    詳細は次の「チェーンメールはなぜ危険か 錆と燃焼」に譲りますが、この脅威は社会のほとんどの人が何らかの形でインターネットに参加している現在、重要性を増していると考えられます。しかしこれまではあまり強調されてこなかったと思います。

    まだあまりこの点を大きく取り上げたサイトを見ないので、ここでは主としてこの脅威に焦点を当てています。

  4. 禁忌を犯したことによる他者からの脅威

    そもそもインターネットではチェーンメールは禁止事項です。

    RFC1855にも明記されています。"2.1.1 For mail:"にある5番目の項目がそうです。

    和訳されたものがネチケットガイドラインとしてありますので、こちらの方が読みやすいかもしれません。「2.1.1 電子メールのガイドライン」の同じく5番目の項目です。(※1)

    もちろん、禁止されているというだけではあなたにとって脅威になることはありません。

    脅威の大きさは、あなたの行為がどれほどとんでもないことだと思われているかによって決まります。

    マルチポストの項目にあるのと同様、インターネット上にはチェーンメールに禁忌感を持った人が多くいます。

    この禁忌を犯せば、あなたは多くの人から抗議を受けることになるでしょう。

    たくさんのメールを受け取り、ブログや掲示板を運営していた場合には荒らしが来たり炎上したりすることもあるかもしれません。

(※1)原文のRFC1855 "2.1.1 For mail:"と見比べるとわかりますが、チェーンメールに対応する英語表現は"chain letters"です。

チェーンメールの何が危険か 錆と燃焼

ここでチェーンメールを作り出す原因について述べておきましょう。

流言といえども伝達される過程一つ一つを見れば、ごく普通の情報交換にすぎません。おそらくは口コミで拡散していくプロセスとほとんど区別がつかないでしょう。

「Rhマイナスの血液が不足しているらしいよ。」

「それじゃこれから○○へ行くからRhマイナスの人がいないか聞いてみるよ。」

このような感じで広がっていくかもしれません。

しかしながら、このような会話がすべて流言になってしまうわけではありません。あるものは流言となり、あるものはなりません。ただの口コミとはどこが違うのでしょうか。

違いは「規模」と「速度」です。

Wikipediaに記載の輸血騒動を例にとってみましょう。(事件の詳細は該当記事文末[1]のリンク先にあります)

この例では多くの人の問い合わせが殺到したのが業務遂行に影響しました。

もし「規模」が小さかったらどうだったでしょうか。

10人、20人程度であれば一度に殺到しても病院の業務に支障をきたすことはおそらくなかったでしょう。(それでも受付は大変な思いをするかもしれませんが)

あるいは「速度」が遅かったらどうだったでしょうか。

Rhマイナスが慢性的に不足しているという話であれば、緊急を要する話ではないので時間的には集中しなかったかもしれません。1万人の人が問い合わせをしたが、それは1年にわたる合計人数だとしましょう。この場合は休日除いても1日平均40人くらいなので、これもおそらくは業務に支障が発生するほどではなかったかもしれません。

このことから「規模」と「速度」が両方揃っている場合には、破壊的な効果があることがわかります。

口コミと流言との違いは錆と燃焼のような関係にあります。どちらも酸化という化学反応ですが、錆は燃焼の何億倍もゆっくり進行し、燃焼ほどの危険性はありません。

それでは、口コミという日常的な現象を流言という激しいプロセスにしてしまうものはいったいなんでしょうか。

自己増殖因子のタイプ 明示的なものと暗示的なもの

チェーンメールの特徴としてあげられるものに、自己増殖の指示があります。

多くのチェーンメールには、文末に「この内容(メール)をn人(できるだけたくさん)に送ってください。」と書かれています。

単純にこんな指示が書かれているだけでは誰もそれに従ったりはしません。

典型的な不幸の手紙などではその前段に「複製を送らないと不幸になる」といった脅迫があり、これが複製指示に従わせる強制力になります。また、進歩(?)した最近のものでは、「輸血のため」「世界平和のため」「被災者を援助するため」などといった善意に訴えるものが多くなっています。脅迫より善意の方が強力で抑制が効かないからです。

特に善意を駆動力にしたタイプは、「緊急に」「できるだけ多く」といった心理になりがちです。これが伝達のプロセスを錆ではなく燃焼にするのに寄与することになっています。

さらに、チェーンメールの中には明確な自己複製の指示を持たないものもあります。

mixiでも時々チェーンメールならぬチェーン日記が流行ることがあるのですが、私は明示的な指示がないにもかかわらず、「きれいな写真だから。願いがかなって幸せになれるから。」という理由で複製を友人に送ろうとしている例を見たことがあります。

これは「きれいな写真」「願いがかなって幸せになれる」というのが、複製を送りたいという衝動を感じる人に対しては暗示的な自己複製指示になっている例です。

暗示的な複製指示は押し付けがましさを感じさせず、さらに抑制が効きにくいでしょう。

他に有名な例としては、「ドラえもんの最終回(ドラえもんの最終回についての都市伝説を参照)」「痛みの基準はハナゲ」があります。前者は元になったWeb掲示板は削除されてしまっていますが、後者は2007年11月11日現在、今でも見ることができます。

元になったWeb掲示板を参照するとわかりますが、自己複製の指示はありません。純粋に「面白いから友達に教えよう。」という動機がチェーン化の原因になっています。

すべてのチェーンメールがその特徴としての自己複製指示を文面に表しているとは限りません。

チェーンメール対策 自己増殖因子の見分け方

明示的な自己複製の指示が書かれたものはすぐ見分けがつくとして、そうでないものはどうしたらわかるのでしょうか。

完全な見分け方はおそらくありません。

しかしチェーンメールの自己複製の指示は、暗示的であっても必ず次の三つの条件は満たすはずです。

  1. URLによる参照ではなくコピー&ペーストをしたい衝動を感じる
  2. のんびりやっていたら意味がないと感じる
  3. できるだけたくさんの人に複製を送りたい衝動を感じる

上記の衝動があなた一人ではなく多くの人の中に生じる時、それは明示的な自己複製の指示なしにチェーンメールとなるのでしょう。

広く呼びかけたいときにはどうすればいいのか 代替手段

ここまではチェーンメールに参加するなという話ですが、しかし世の中に広く呼びかけたいということもあるのはたしかです。

被災者の援助や署名のようなものは、かなり多数の人の参加を必要とします。そのようなものはどうすればいいのでしょう。

広報を行うのに必要な場所というものが必ず社会のどこかに用意されているはずです。そこを使いましょう。

インターネットに限っても広告などを出せるところはいくらでもあります。

ここで、「でもお金がかかる。」と思ってしまった人は、そもそもそんな活動はやめてしまいましょう。お金を出すほど価値のないものであれば、やる必要はないでしょう。

募金にはお金を出すのに、募金を集めるのにお金を使えないというのはおかしいのではありませんか?

それならば従来通り、街角で署名をしたり募金をしたりで充分なのではありませんか?

最後に

もしメールがチェーン化したら最初の目的を達成することは難しいかもしれません。実際、問題を解決したチェーンメールを見たことはありません。

そして、あなたの書いた内容は伝達されるうちに誤りが混入し、元の文とは異なった内容になってしまいます。

メールはランダムに亜種を作りながら広がっていくことでしょう。そして、そのうちのいくつかはどこか無関係なところに多大な迷惑や被害を与えるかもしれません。あるいは悪意のある何者かが意図的に危険な亜種を作るかもしれません。(※1)

お金を振り込むタイプのものはよく危惧されますが、誰かが振り込み先や連絡先を自分の都合のいいものに変更した亜種を広めるというものがあります。当然これも制御できるものは誰もおらず、無秩序に広がっていくことでしょう。

何か被害が発生した時、誰がその責任を取ることになるのでしょうか。そもそも責任を取れるような範囲内に収まっているのでしょうか。

(※1)興味深いことにチェーンメールを観察していると亜種はかなり初期のうちから登場します。

話し言葉を聞き取り、人間の不確かな記憶で伝言ゲームをするのに比べて、文字をコピー&ペーストする場合はもっと正確に伝達されていてもよさそうなものです。

多くのチェーンメールに含まれる「この文をコピーして…」という指示がそのまま実行されていないのは明らかです。

文章に手を入れたい、自分なりの表現を追加したい、といった衝動を持つ人が少なからずいるのでしょう。

このことは、情報伝達の手段がどれほど正確なものであっても、人が介在する限りは話し言葉による伝言ゲームと同程度の正確さしか出せないことを意味しているように思われます。

参考文献

このページの内容を理解する上で参考になりそうな文献を挙げておきます。

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最終更新日:2008/01/26(土)